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教育


 

「こうのとりのゆりかご」は誰のため?
2007/11/04              畔田 涼(17)

 熊本の慈恵病院が捨て子の救済を目的に設置した「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」。賛否両論のこの設備の運用が、2007年5月10日開始された。この設備は捨て子を救うために役立っているのか、それとも育児放棄を助長するものになってしまっているのか。また、この設備が全国に広がったらどうなるのか。慈恵病院の蓮田理事長と、現在の「こうのとりのゆりかご」のシステムに近い「捨て子台」を過去に設置していた東京都済生会中央病院の乳児院の大庭看護師長にお話を伺った。

 蓮田理事長は「赤ちゃんの受け入れは、あくまで緊急避難の手段である。相談での解決が望ましい」と全国の自治体の相談窓口の必要性を説く。慈恵病院で行っている24時間無料電話相談には、東京や関西を中心に北海道から沖縄まで全国から相談がくるとのことだ。

 一方、済生会中央病院の大庭看護師長も「こうのとりのゆりかごに、基本的に賛成」と言う。現在、乳児院にはさまざまな理由から赤ちゃんが預けられている。一番多い原因は、母親のうつ病などの病気で、全体の3〜4割を占めるとのことだ。

 それでは、「こうのとりのゆりかご」のような設備が全国的に広がったら、中絶が減って捨て子が増えるだろうか。大庭看護師長は「中絶と捨て子の関連性は少ない」と考えている。「それより性教育をきちんとするべき。そうしなければ、根本的に変わらない」と両者は語る。

 私達はこの設備の賛否に関係なく思う。「親には責任のある行動をとってほしい」「児童相談所など相談できる機関がある事を教えてほしい」と。

 「こうのとりのゆりかご」をマスコミが「赤ちゃんポスト」と報じたため、簡単に赤ちゃんを捨てることができる設備といった印象を受けやすい。蓮田理事長の「赤ちゃんの受け入れは、あくまで緊急避難の手段。相談での解決が望ましい」という趣旨を正しく理解せずに、安易な気持ちで出産し、この設備を使用する人がいても、それを阻止することはできない。きちんとした性教育が施されるとともに、こうした本来の趣旨を理解することが必要だと思う。

 「こうのとりのゆりかご」はだれを救うのだろうか。母親、それとも子どもなのか・・・。いずれにしても、私達はこのような設備の必要性がなくなるような社会になることを望んでいる。

子どもは社会の宝
2007/11/04             川口 洋平( 17 )

 熊本市 の慈恵病院に設置され、5月10日から運用が始まった『こうのとりのゆりかご』 ( 通称:赤ちゃんポスト ) 。運用から4ヶ月がたち、今までに6人の赤ちゃんがこの施設に預けられた ( 9月2日現在 ) 。新生児の虐待を防ぐなど期待される影響は大きいが、ポストに子どもを入れるかのような感覚から、育児放棄を助長する原因となるなどの批判もある。

 なぜ『こうのとりのゆりかご』を設置することになったのだろうか。

 慈恵病院の蓮田太二理事長によると、赤ちゃんの立場に立って、赤ちゃんを一人でも多く救いたいとのことから『こうのとりのゆりかご』の設置を決めたという。カトリック系の病院である慈恵病院が、キリスト教では中絶を禁じている立場から、中絶の代替手段として赤ちゃんを生まれてから手放すというという仕組みを取り入れたわけではないということだ。

 『こうのとりのゆりかご』を運営していく上で、これまでにあった類似施設の廃止理由が参考になる。群馬には平成4年まで『天使の宿』という名前で『こうのとりのゆりかご』と同様に身元を知られずに赤ちゃんを預けられる施設があった。無人のプレハブ小屋にパイプベッドという簡素なつくりのこの施設には約5年半で10数人が預けられたが、平成4年にベッドで死亡している男児が発見され、この施設は閉鎖された。

 同様に、東京都済生会中央病院にも病院内の廊下に、「育てられない方は赤ちゃんを置いていってください」という立て看板の横にベビーベッドを置いただけの『捨て子台』と称される施設があった。東京都済生会中央病院附属乳児院の大庭尚子看護師長によると、終戦後2 〜 3年に渡って戦災孤児救済のために『捨て子台』が運用されていたという。詳しい運用状況は資料がなく分からないが、昭和22年に児童福祉法が制定され、孤児の数が少なくなったためこの施設は昭和23年ごろに廃止されたという。

 『こうのとりのゆりかご』が国内初の施設だと思われがちだが、以前にもこういった施設はあったため、運用方法を誤らなければ、先例にもあるように社会的に有用な施設となるにちがいない。また、「赤ちゃんポスト」という名称から安易に捨てるという印象を受けがちだが、慈恵病院では、『こうのとりのゆりかご』という名称を使っており、ポストという名称はマスコミが勝手につけた非公式な名称だという。

 ただし、匿名で赤ちゃんを受け入れるということは問題ではないだろうか。大庭看護師長によると乳児院 (2 歳までの養護施設 ) に預けられた赤ちゃんのうちの75〜80%が親元に帰ることができ、帰ることのできない人は 40〜60 代になっても自分のルーツを探しに施設を訪れるという。もし全て匿名で預けられたら、親元に帰れる割合はゼロ。預けられた赤ちゃんは一生自分のルーツを追い続けることになるのだ。

 今後このような施設が全国的に広まったら、母体に負担のかかる中絶件数が減る一方で、育児放棄を助長することにもつながるとも言われている。これについて大庭看護師長は、中絶と捨て子の関連は少なく、根本的に性教育を充実させなくては、現状の中絶件数や捨て子件数は変わらないという。乳児院に預けられた子どもの親の事情を多い順に並べると、親の病気、虐待、育児放棄で、そのうち親の身元不明で育児放棄として預けられるのは年に 1 回程度しかなく、育児放棄というよりも、経済的事情などで親がやむを得ず一時的に乳児院などの施設に預けることが多いそうだ。このことから、育児放棄の心配は、あまりないといえるだろう。

 「子どもは社会の宝だ」と大庭師長は言ったように、 子どもは未来の社会を担う大切な存在である。 今後、『こうのとりのゆりかご』のような施設が全国的に広まり、適切に運用されることで、一人でも多くの赤ちゃんが救われることを願う。

現代社会における「こうのとりのゆりかご」
2007/11/04             藤原 沙来(17)

 2007年5月10日正午から運用が開始された『こうのとりのゆりかご』。この本来の姿を把握している人はどれほどいるだろうか。「こうのとりのゆりかご=赤ちゃんポスト=気軽に子どもを捨てられる施設」となってしまっているように感じる。現代になぜ、このような施設を設置しようとしたのか、その理由について慈恵病院 蓮田太二理事長に取材した。

 慈恵病院は、2006年12月15日、熊本市に『こうのとりのゆりかご』の設置申請を提出、2007年に4月5日に許可された。現在、人目につきにくい病院の外壁に設けられた開閉できる扉(縦45センチ、横65センチ)のなかに、36度に温度管理された保育器が置かれている。赤ちゃんが入れられると、センサーが感知し院内にブザーで知らせ、医療従事者が駆けつける仕組みだ。対象年齢は2週間以内の子どもという条件があり、新生児への命名は熊本市長が行うとされる。母親が名乗り出た場合、自ら育てるか、もしくは、母親の生活状況や精神状態などを十分考慮し、親権放棄あるいは親権剥奪後、里親か養親に引き取ってもらう。 名乗り出ない場合は、警察や市役所などと連絡を取った上で裁判所の判断にて児童相談所など、施設に引き渡すという。

 「熊本県内で赤ちゃんが捨てられる事件が立て続けに起こり、助けられる命は助けたいというのが設置理由」だと言う。慈恵病院は設置以前から、小中高など多くの場所で積極的に命の大切さを訴える運動を行ってきたが、「最近、親が子どもを殺し、子どもが親を殺すといった事件が増え、今後、赤ちゃんを捨てる事件も増えてしまうのではないかと危惧している」のも設置理由のひとつである。

 蓮田理事長は一連の報道で命の大切さを訴える機運が高まることはよいが、「『赤ちゃんポスト』と呼ぶのをやめて欲しい」と訴える。このネーミングのせいで、“何か事情があった場合、子どもを捨てることができる場所”といった本来とは異なる趣旨が広まったことに困惑していた。「赤ちゃんが捨てられる事件は二度と起きて欲しくない。預けてしまう前に、まず相談してほしい。相談してもらえば、必ず助けになれると思う。『こうのとりのゆりかご』のような施設より、相談できる場所が増えることで赤ちゃんが助かる場合が多いので、今後は、相談できる施設を全国に広めていきたい」と語った。

 私たちは、東京都済生会中央病院附属乳児院 大庭尚子看護師長にも取材をした。ここには、『こうのとりのゆりかご』の先例となる「捨て子台」が戦後2〜3年に渡り設置されていたとされる。「捨て子台」についての資料は残っておらず実態は不明だが、「終戦直後、経済的に子どもを育てられないと困った母親が、病院なら育ててくれるかもしれないと子どもを置き去りにした。病院もかわいそうだと思い設置することにしたのでは」と言う。

 「現在、乳児院に預けられる子どもの大半は、母親が病気で子育てが十分に行えない場合である。親の顔を知らない「捨て子」は年に1人程度しかいない」。つまり、理由があって子どもを預けているケースが多く、75?80%の子どもたちは自宅に帰ることができるのである。

 「豊かになった現代にも、捨て子台のような施設を必要としている人はいる。『こうのとりのゆりかご』に入れられるだけ、まだマシだとも考えられる。ただし、『赤ちゃんポスト』という呼び方は、 赤ちゃんをモノのように扱い、生命が軽々しく感じられて良くな い」と締めくくった。

 『こうのとりのゆりかご』に預けられたら捨て子同然で可愛そうだという声がある。しかし、『赤ちゃんポスト=子どもを気軽に捨てられる施設』といった本来の意味とかけ離れた捉え方が広がったことがそういった考えを生み出しているのだと感じる。現代社会には必要な施設であり、経済的に子どもを育てることが難しい場合に、『こうのとりのゆりかご』を利用するといったような有効に利用する手立てはある。乳児院に預ける場合よりも深刻な問題を抱えている人は存在する。『こうのとりのゆりかご』が設置された背景とともに、21世紀に設置された意義を考えなければいけない。

 今後は『赤ちゃんポスト』と呼ぶことを止め、『こうのとりのゆりかご』について正確に把握することが必要である。そして、『こうのとりのゆりかご』の社会的使命を全うするにあたって、蓮田理事長が言うように多くの相談所の設置を、ぜひ検討して欲しい。

「赤ちゃんポスト」は必要か
2007/11/21             曽木 颯太朗(15)

 乳児が捨てられるのを防ぐために熊本県の慈恵病院が「こうのとりのゆりかご」(巷では「赤ちゃんポスト」と呼ばれている)を設置してからそろそろ4ヶ月になる。これは諸般の事情によって育てられない生後2週間までの乳児を病院に預けるというもので、ドイツでは同様の施設が全国で 80 ヶ所を超えるといい、各国に広まっている。

 しかし、日本で設置するときには「かえって育児放棄が増える」「倫理的にいかがなものか」と反対・慎重論が根強かった。設置後も 3 歳児が預けられていたなど混乱が絶えなかった。赤ちゃんポストを設置することは、そんなによくないことなのだろうか。また捨て子の実態はどのようなものであるのだろうか。

 日本にはこの施設以外に同種のものとして児童福祉法に定められた乳児院や児童養護施設といった施設がある。僕たちは捨て子の実態などについて東京都済生会中央病院付属乳児院の大庭看護師長にお話をうかがった。

 乳児院は 0 歳〜 6 歳までの子どもを受け入れることができるそうだが、現在同院には 0 歳〜 2 歳までの子どもしかいないという。乳児院の最大の目的として大庭さんは「大人は優しい存在だと分かってもらうこと」を挙げる。

 済生会の乳児院の歴史は古く、 1923 年に始まる。詳しい記録は残っていないが、当初は戦災孤児が多かったそうだ。現在入所には児童相談所の決定が必要だという。大半が母親の病気による一時保護で、虐待・育児放棄によって保護された子どもが若干いる程度、本当に親が分からない子どもはほとんどいないらしい。だから全体の 80% 弱は実家に帰れるそうだ。そして残りの子どもは里子や養子に出されたり、児童養護施設に預けられたりするのだという。

 一時保護でない子どもたちの中で多いのは、妊娠に気づかないで産科に通わず、突然出産してしまう「駆け込み分娩」の後、母親が姿を消してしまうケース。また 10 代の出産により乳児院に子どもが預けられることもあるという。

 この乳児院には終戦後の一時期、捨て子を預かるための「捨て子台」という捨て子を置くためのベッドがあったという。資料はほとんど残っていないらしいが、戦争で育てられなくなった子どもが乳児院前に捨てられて凍死するのを防ぐ目的だったそうだ。いつまであったかも明らかではないが「おそらく児童福祉法が制定された昭和 23 年ぐらいまで」と大庭さんはいう。

 それでは公的な施設ではない「こうのとりのゆりかご」は一体どうして出来たのだろうか。慈恵病院の蓮田理事長に電話で取材を行った。

 設置した理由について蓮田さんは「日本では捨て子は少ないと思ってきたが実は多いことを知り、助けられる命は救いたかったから」だという。安易に子どもを捨ててしまうのではないかという問いに対しては「子どもを捨てるというのは並大抵のことではないから安易にはそうなるはずがない」と答えた。その上で、設置後、全国から子どもの養育や妊娠、結婚などについて多数の相談が寄せられていることに触れ、「全国に相談窓口をもっと増やすべきだ」と語った。

 このような施設はできれば使わない方がよい。しかし虐待や養育放棄によって死んでしまうことを考えると、このような施設に預けられた方が子どもにとって幸せになる場合もあるだろう。倫理的な問題で反対する人はいるが、現代の生命を軽んじる風潮を考えると“命を守る”という観点から、いたしかたないと思う。もちろん、そうなる前に国や自治体は相談窓口を増設することや、積極的に教育を行うべきだ。予算が足りないからといって必要なところまで削っている場合ではない。実際に全国でゴミ捨て場から乳児が発見されるという事件が相次いで起きているのだ。養育のための補助金を増やすよりよっぽど効果があるのではないか。

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▲ 「捨て子台」を設置していた、東京都済生会中央病院乳児院の大庭看護師長へ取材

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▲CE記者で座談会を行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▲ 「捨て子台」を設置していた、東京都済生会中央病院乳児院の大庭看護師長へ取材