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教育


 

減少する産婦人科医
2009/5/25                 宮澤 結(15)

 ここ最近、産婦人科の医師不足が深刻だ。それに伴い出産を扱う病院が減っていることも、ニュースの特集でよく報じられている。

 報道を見ているうちに、私たちの世代にも将来関わってくる出産について大きな不安を感じた。少子化に拍車をかけてしまうのではないだろうか。そしてどうしたら安心して出産でき、子どもを育てる環境を作り上げることが出来るのだろうか。

 驚いたことに、私達が取材したジュノヴェスタ・ハッタ・クリニックの八田理事長、都立府中病院産婦人科部長の桑江先生、都立大塚病院産婦人科の砂倉先生の 3 人の先生方はともに「常に医師不足を感じている」という。桑江先生は「ここ 2 年の間、産婦人科医は少し減った状態で下げどまりしている。しかしまだまだ現場の医師は少なく、家庭の仕事との両立も難しいうえ当直が多く、ほとんどの時間を病院で過ごしている」と過酷な勤務環境を話してくれた。

 今回取材を行ったところ、医師不足の原因には、苛酷な勤務環境、訴訟のリスクが高いこと、医師の高齢化の三点があげられた。

 過酷な勤務環境については、先にも書いたとおり当直が多いことが関連している。特に、出産は 24 時間いつ起こるか時間が特定できないので、土日に当直があることも少なくないという。

 次に、訴訟のリスクが高いのは報道で取り上げられることもあるので、知っている人も多いと思う。「今まではなかなかマスコミに取り上げられなかったが、命を扱うお産では事件はいつあってもおかしくない。マスコミに取り上げられ明るみになったことで、国民全体でどんな医療になりたいのか、どのように医療をしていくべきなのか議論してもらいたい」と桑江先生は言う。

 私達が東京都港区の病院前で行った妊婦さんへのインタビューでは、定期的に検診を受けたり、総合病院を選ぶようにしたなど、自身で対策をしている方が多かった。出産に関する様々な事件に関しても、「病院の責任だけでなく、システムにも問題がある」「病院のベッド数や医師数を考えるとなんともいえない」といった産婦人科医の不足を理解した意見が多いように感じられた。桑江先生は「妊婦さんには自分自身がしっかりするという気もちを持つこと、親や友達からお産の情報を得ること、そして子育ては自分ひとりで出来るものではないから誰かに手伝ってもらえるような人間関係の構築をしてもらいたい。また、医師と妊婦さんのお互いが理解仕合い、現場の医師は誰もが命を救おうと必死だということを知ってもらいたい」と語った。

 そして三つ目の医師の高齢化は、先に上げた過酷な勤務環境、訴訟の高いことから、若い人が入ってこないことが原因になっている。リスクも少なく、当直も少ない他科と比べると、産婦人科はやりがいだけで選ぶことになってしまうので、希望する人は少ないようだ。やはり若い医師が入ってこないと当然医師の高齢化は進むし、入ってこない分勤務環境もより一層苛酷になる。

 産婦人科医の医師不足は、どのように立て直していくかまだまだ道は長いという。

 砂倉先生は「産婦人科は他科とは違い『よかったね、おめでとう』『またいらっしゃい』といえるし、命の誕生と言う喜びに立ち会える唯一の現場だから、とてもやりがいを感じられる。出産して元気で喜んで帰っていくのが嬉しい」と言っていた。

 命の誕生に関わる産婦人科医の仕事。だからこそリスクが高く大変な現場だと思うが、今回話を伺った先生方は仕事にやりがいを持っているのをすごく感じた。産婦人科医がもう少し働きやすい環境や制度をつくり、少しでも産婦人科医を希望する人が増えることを願っている。

 

安心して「お産」をできる環境に
2009/5/25                井上 麻衣(18)

  「妊婦さんのたらい回し」がメディアを騒がせたことは、記憶に新しい。たらい回し、つまり妊婦の受入先がないということは衝撃的だった。この背景には産婦人科医の不足がある。将来、「お産」をすることになるであろう今の若者は、このままの体制で安心して産むことができるだろうか。何よりも「お産」に対して不安に思い、取材を始めた。

 まず、現場で働いている東京都立府中病院の桑江千鶴子産婦人科部長、東京都立大塚病院産婦人科の砂倉真央医師、ジュノヴェスタクリニックの八田賢明理事長に現在の産婦人科医の不足について詳しく話を聞いた。すると現場からの悲痛な訴えとともに、医師たちの懸命な姿勢を目の当たりにした。

 いくつかの問題点が医師不足を引き起こしていた。第一には「お産」は 365 日 24 時間対応が必要で、1人あたり月平均で 350 時間勤務と実に苛酷であるという現実を知った。また、産婦人科医は女性の割合が高いが、自身の出産や育児を機に辞める人が多いことも医師不足の理由の一つだ。そのことにより、医師不足がより進み、残された医師の負担が大きくなる。桑江産婦人科部長は「現場を支えているのは女性であり、女性にとって働きやすい環境をつくることが大切だ」と話し、続けて「産婦人科医は働く女性の問題が集約されている」と強調した。実際に出産を経験し、育児をしながら現場へ復帰した砂倉医師は「現在は短時間勤務で働いている」と話し、育児と家庭の両立をしながらも働ける環境をつくる大切さを訴えた。

 次に、開業医の八田理事長は「助産師がいないとお産を扱えない体制がある」と現状を話し、国の政策で「お産」場所が限られていることも医師不足の一因であることがわかった。また「医師の高齢化も医師不足に拍車をかけている」とも話し、後継者がいない現状が見えてきた。

「日本では母体死亡は少ないが、お産には常時危険が伴う」と熱く話したのは桑江産婦人科部長だ。また「無事に産まれるのが当たり前で、それ以外だと医療ミスと言われ不信の目を向けられる」と訴訟リスクの高さと、それが原因で「お産」を扱わない医師が増えていると悲痛な声で話したのは砂倉医師だ。これらが産婦人科医の医師不足をまねき、現場を支える医師たちを苦しめている。

将来を担う医大生は産婦人科をどう思っているのだろうか。山形大学医学部の内田桃子さんはじめ学生さんたちにアンケートに協力してもらったところ、やはり多くの医大生は産婦人科に対してやりがいはありそうだが、仕事の多さやリスクの高さを感じると答えた。現状を冷静に見ているように思えた。

 また、東京都港区の病院の前で 6 人の妊婦さんが快く取材に応じてくれた。 6 人全ての方が医師不足を感じると話し、「先生が毎日いない」、「医師不足のために予約時間でも待たせることがあります、という張り紙がある」と話した。また、「『たらい回し』問題に対しては病院選びには注意している」と自ら対策をしているという声を聞いた。

 現在の産婦人科医の減少にはこれまでに挙げた問題が存在するが、砂倉医師は「産科は唯一命の誕生という喜びと立ち会える」とにこやかに話し、アンケートに答えてくれた産婦人科医志望の医大生は「お産に携わることはやりがいがありそう」と答えた。そもそも「お産」は喜びの瞬間であるということを忘れてはならない。

 産婦人科医の減少の取材の結果、医師不足によって医師、妊婦さんは大きな負担と不安を抱えており、早期対策が必要な問題とわかった。しかし、同時に現場で働く医師の必死な努力があるということを痛感した。産婦人科医の医師不足がクローズアップされるが、医師の絶え間ない努力があるからこそ、「お産」ができるわけである。そんな医師たちの負担軽減と現在の妊婦さん、そして将来妊婦になるであろう若者に安心して「お産」ができる環境を皆で早急につくっていくべきである。

産婦人科医
▲ 東京都立大塚病院産婦人科の砂倉真央医師 に取材

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桑江産婦人科部長▲東京都立府中病院の桑江千鶴子産婦人科部長