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<映画・TVを支える裏方>
「日本映画の特殊メイク・特殊造形」
            第一人者 原口智生さん
―興味があるということ、それが一番大事なんです―

                 2008/2/8 貝原萌奈実 (18歳)
                        藤原 沙来  (18歳)

 近年、「やりたいことが見つからない」という若者が多いと言われている。だが本当に「見つからない」のだろうか。実は「見つけようとしていない」だけではないだろうか。

 世の中には知らない世界がたくさんある。やりたいことが見つからない人は、違うところへ行って色々やってみればいいのだ。きっとそのうち、魅力を感じる何かに出逢えるはず――日本映画の特殊メイク・特殊造形の第一人者である原口智生さんがそう教えてくれた。

 彼はウルトラマンやガメラなど多くの有名な映画で特殊メイク、造形を手がけており、1988年にはベルギー・ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭スペシャル・メイクアップ・コンペティションにおいてグランプリを受賞している。今回は、そんな彼の職業に迫ってみた。

●特殊メイク、造形とはどんな仕事ですか?

 特殊メイクというのは、俳優さんたちが役になるための扮装ですね。女性の化粧と同じようなものですが、普通の化粧では無理な役柄を演じる際に登場するのが特殊メイクです。たとえば、俳優さん本人の年齢とかけ離れた役柄の場合、役柄の年齢に応じてしわ・たるみ・歯などを作ります。

 特殊造形というのは、ウルトラマンや仮面ライダーなど人が着て使う着ぐるみや、はだしのゲンなどで使う死体の人形などの小道具のことです。現実にありえないものや、作りものでやらないとまずいものが登場する場合に使われますね。

特殊造形はどのように作られるのですか?

 何を求められているかによって作り方は変わってきます。俳優さんに使う場合は、まず型をとって人工樹脂やウレタンなどで皮膚を作ります。使う素材も映像が求めているものによって変わってくるんですよ。食品店や100円ショップなどで良い素材が見つかることもあります。あと、器用に上手に作るだけではだめ。クラフト的な仕事なので、工夫・イマジネーションも必要です。効果的なものは何かということを考えて、求められているものを自分の感性を働かせて作ります。 。

●経費はどれくらいかかるのですか?

 ドラマや映画によって求められる内容が違います。価格表のようなものはないからオーダーによって材料も変わってきますね。一番大変なのは、細身の俳優さんを太らせるなどといった、全身を変えるメイクの場合です。やっぱりメイクする部分が多いだけ、お金も時間もかかってしまうんです。

制作した作品は、撮影が終わったらどうなるのですか?

  こういった作品はその映画やドラマで映った時点で役目を終えるんです。役目を終えたものに関しては、部屋で保管していますが、俳優さんが欲しがった場合は差し上げることもあります。あと、展覧会を開いているところに持っていくことなんかもありますね。

●今まで手掛けた特殊メイク、造形の中で印象に残っているものは?

 新藤兼人監督の「花は散れども」という映画でやらせて頂いた、ケロイドを発症した原爆被爆者という設定の特殊メイクですね。演じたのは大杉漣さんです。この映画は広島が舞台なのですが、監督の実体験を基にした作品でしたので、監督が何を求めているのかを色々と話し合いました。ケロイドをグロテスクに表すべきか、広島の象徴として表すべきか、哀れなものとして表すべきか、それによっても変わってきますからね。とてもやりがいがありました。

●なぜ、この仕事に就こうと思ったのですか?
 
どうやってこの仕事に就いたのですか?

 祖父が東宝映画で録音の仕事をしていたので、子供の頃にはウルトラマンや怪獣ものの撮影所によく遊びに行っていたんですよ。そこで見た特殊メイク、造形を見てすごいなと思ったのが最初。でも、それから今の仕事をずっと目指していたってわけではないんです。大学は全然関係のない人文学部でしたしね。だけど、その頃人形アニメーションに興味を持って、ワークショップに参加したり、アルバイトをしたりしていました。小さい頃に祖父の撮影所での仕事を見ていたのもあって、アルバイトでの映像の仕事とはいえ、やっぱり居心地が良かったですね。

  それから川本喜八郎さんの「火宅」という映画のスタッフになりたくて、半年間それに打ち込んだこともあります。それでやはり自分は「こういう仕事に興味があるな」って思いました。それから、自分の工房を立ち上げたんです。当時は珍しい仕事だったこともあって、口コミで自分の存在は広がっていきましたね。

●どんな人がこの仕事に向いていますか?

 興味があるってことが一番大事だと思います。人に感動を与えられるという強い思いがある人にも向いていますね。

●学生時代、図工や美術の成績は良かったですか?

  学校の成績は全教科通して2・3がほとんどでした。学校は友達と遊ぶために行っていたようなものですね。今の仕事をやっているのは「興味があったから」なので、美術の成績は関係ないんです。

●尊敬している人は?

  昔、高山良作さんという方を目標にしていました。彼は現代彫刻が本業だったのですが、生活のためにウルトラマンや怪獣なども作っていたんです。昔は「高山さんのようになりたい」と思っていましたが、高山さんのものは高山さんにしか作れないということに気づいて、自分は自分のセンスで作っていこうと思いました。だから今は、特に誰かを目標にしているっていうわけではないですね。

苦労したことは?

  基本的にないです。現実的なことを言うと経済的な面ですけどね。特殊メイクで大変だったのは、「嫌われ松子の一生」という映画の時に、中谷美紀さんの年齢変化の表現です。夏の撮影にも関わらず、ボディースーツなどを着せなくてはいけないので大変でした。メイクが崩れてしまう心配もありましたしね。あと最近では、テレビがハイビジョンになってますます細かいところまで配慮しないといけなくなったので、それもなかなか大変です。

今までで一番工夫したと思うことは何ですか?

  「戦国自衛隊」という映画で、ミイラを作る必要があったんですが、シリコンなどでは本物のミイラっぽい質感が出せなかったんですよ。それで色々考えたところ、ある日焼く前のスルメがミイラっぽく感じられたんです。これは使えるんじゃないかって、人間の骨の模型にはめ込んでみたら見事にミイラっぽくなりましたね。ちなみに干ぴょうは筋肉のようになるんですよ。

作ってみたいものってありますか?

  これも特にないんです。「求められて応える」っていうのが自分のスタンスですから。映画の中に必要な道具を作るってことに充実感をおぼえるんですよ。きっと自分は芸術家ではないんでしょうね。あくまでも映画を作る上での「裏方」であって、職人なんです。あえて言うなら、部分的ではなく1つの映画を全部作ってみたいですね。

この仕事のやりがいは?

  やはり、映画の狙ったエモーショナルな反応があった時は嬉しいですね。自分で作ったものが映画やテレビの中で狙い通りの役割を果たしていることに一番満足します。自分が作ったものを見て感動してくれる人がいるということがやりがいなんです。「形あるもの」つまり造形そのものではなくて、それが映し出されて映像の中で役割を果たすという「形ないもの」で感動を引き出す仕事ですからね。

海外進出など、今後の展望はありますか?

  特にないです。ハリウッドやロンドン、モントリオールなどでの交流があって、情報交換なんかはしていますが、自分は日本人だし、日本でやっていける範囲でやっていけば十分だと思っています。

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 「特に大きな野望はない。自分のできることが、映画に生きてくれたらいい」――取材全体を通して、原口さんにはこんな印象が伺えた。ビッグな人物だけに意外だったが、彼のような純粋な考え方が実は最も大事なのではないかと思う。

 やりたいことが見つからないという若者が多いのは、「何かをやる」ということを重く考えすぎているのではないだろうか。原口さんは取材の中で、「この仕事をやってみたいと思ったら、まずは身近なもので何でもいいから作ってみればいいんですよ」と力強く語ってくれた。

 少しでも興味を持ったことは、とにかくやってみる――そうすることで、自分の「やりたいこと」に出逢えるのではないだろうか。失敗を恐れずに何事にも挑戦していくことが新たなステップになるようだ。

取材をした記者の感想

・貝原 萌奈実
  特殊メイク・造形の仕事をしている人は皆芸術家のような意識を持っているのかと思っていましたが、原口さんのお話を伺って、この仕事に対する見方が変わりました。あくまでも裏方であり、職人であるというお話でしたが、映像の中で役割を果たすことで価値を見出される特殊メイク・造形には、普通の芸術を超える何かがあるように感じられました。

・ 藤原 沙来
  特殊メイクや造形は、器用さや芸術的なセンスが求められ、才能を持った、限られた人にしかできない職業だと思っていました。しかし、「感動などの形ないものを引き出すのがやりがい」と言うように、映像の中で効果的に登場する原口さんの作品には彼の熱いメッセージが込められているのだなと思いました。仕事に対する興味の深さが同時に伝わり、裏方・職人についてだけでなく人間として教えられることが数多くありました。

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原口智生さん
▲ 「中州プロ」原口智生さん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

棚にびっしり作品が置かれている
▲ 作業場には所狭しと作品が置かれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

首
▲ 数々の映画に登場する作品がここに集結。異空間に迷い込んだようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3体
▲ 振り返ってみると思わず「ぞっ」とするような作品の出来栄え