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自分を表現する力が大切〜阿川尚之慶應義塾常任理事に聞く〜
2010/07/08               飯沼茉莉子(13)

 AO 入試に興味のある人なら、慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパス( SFC )を知っていると思う。慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパスの2学部(総合政策学部、環境情報学部)は 1990 年の開設と同時に、日本で最初に AO 入試制度を導入したことで知られている。今回私たちは自分たちにも読者にも役に立つ情報を得たいと思い、 AO 入試の面接を担当されたこともあり、また総合政策学部の前学部長でもあった慶應義塾常任理事の阿川尚之先生( 59 )に取材をした。

 SFC の 2 学部の AO 入試について、個人的に気をつけていることは「第一次試験の書類審査で、活動報告書など提出書類を正直に自分の力で書いているか」であり、「第二次試験の面接では、短時間に、自分がどれだけこの大学に興味を持ち、入りたいという意欲があるかをアピールできるか」だと阿川先生は言う。

 つまり、親や塾の先生の手を借りずに文章が書けないといけない。先生は、高校生に完璧な文章を期待してはいないと言う。親や塾の先生が手を入れた文章が第一次審査を通ったとしても、面接では落ちるだろう。面接者は面接の時に、書類に書いてあることを本人が自分で考えて書いたものかを見抜くために相当ひねった質問をしてくる。受験生はそういう意地悪とも思えるような質問にも答えられなければならない。自分で考えて書いていない受験生は質問に答えられず黙ってしまうという。

 面接の時は誰でも緊張するだろう。質問をされても、緊張のあまりすぐに答えがでないかもしれない。しかし、そこで、すぐに答えは出ないけれど一生懸命考えているところを先生たちはしっかりみている。静かな受験生の場合は特に丁寧にみるという。また、この大学に入りたい気持ち、大学に入って何をしたいのか、情熱をアピールすることが大切だという。それには、自分がどういう人間かを面接者にわかってもらうために、自分の言葉で表現できないといけない。

 阿川先生のお話から、合格している子に共通していることは、どれだけ真剣に物事を考えているかであるということがわかる。書類にどれだけ立派なことを書いても、面接で見抜かれてしまうのだ。

 阿川先生は、 AO 入試は多くの受験生の書類を読み、面接を一日中行うのでとても大変だが、自分が会ったことのない個性の強い受験生に会えるのがとても楽しいと言っていた。逆に、もっともらしいことを言うだけの学生には、阿川先生はあまり魅力を感じないと言う。

 今、世間では AO 入試での入学者の学力低下が問題視されているが、阿川先生は、「 SFC は AO 入試をやって良かった」と言う。『日本の論点 2009 』(文芸春秋・編)にも書いているが、「 AO を通じて素晴らしい学生をとることができる」、「生身の若者に接し、その力と意欲を全身で感じ取って合格者を決められる」ので、 SFC では AO 入試を中止したり縮小をするつもりは全くないと言う。これからも SFC の AO 入試は続くだろう。

 AO 入試は、学力試験の点数だけではわからない、受験生の人間性と能力をみることができるところが優れているところだという先生の考えに、私も共感する。成績はずば抜けて良くなくても、自分の人間性や活動内容を評価してくれるところがとても魅力的だと思う。

 

受験者の熱い思いが評価されるAO入試
2010/07/08               寺浦 優(15)

 大学に入学するための一つの手段、それが AO 入試である。

 AO 入試では、学力テストを行う学校は少なく、高校 3 年間の取り組みなどが評価される。では、 AO 入試とはいったいどんな入試なのだろうか。

 今回、慶應義塾理事(前総合政策学部長)の阿川尚之先生 (59) にお話をうかがった。

 AO 入試(アドミッション・オフィス入試)は、 1990 年に慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス( SFC )の総合政策学部と環境情報学部が設立されたときに、日本で初めて導入された。筆記による学力試験の結果による一面的な能力評価ではなく、書類選考と面接試験によって多面的、総合的に評価する入試形式だ。

 SFC では近年志望者がおおむね増える傾向を示しているという。また、 SFC が実施した 2005 年の調査によると、入学後の成績、活動、学術・芸術・社会活動・文化活動において優れた成績を挙げた学生を大学内で顕彰する「塾長賞」や「塾長奨励賞」などの受賞実績において、 AO 入試で入学した学生は一般入試で入った学生より良い結果を出しているそうだ。

 阿川尚之先生は、「個人差はあるが、 SFC を志望するにあたり、 SFC について調べ、訪れ、大学で何をしたいか考え、文章にする。その過程で SFC が好きになる人が毎年相当数存在する」と言う。さらに、 AO 入試で入学した学生の多くは、入学後も積極的で、その意欲がキャンパスを満たし、一般入試の学生に刺激を与えるという。

 阿川先生は個人的に「 AO 入試では、面接を大事にしている」と言っていた。その理由はいったい何なのか。

 それは、近年 AO 入試対策の塾などで、大学に受けがいい志望理由の書き方などを教わる人が出てきたからだ。その文章を本当に受験生本人が自分で書き、思いを素直に伝えているかどうかどうかが必ずしもはっきりしない。大学としては本人に直接質問することで、本人が自分の力で考える力を有しているかを見抜き、欲しい人材を選抜する。だから面接が重要なのだ。

 しかし、面接の時間は限られている。それに、まず大学入試で緊張しない人などいないだろう。そんな、緊張と限られた時間の中で、面接官の質問に完璧に答えられる人などは数少ない。その点について聞くと、阿川先生は「大学は、ただ勉強をする場所ではない。考える力を身につけるところ。すぐに答えられなくても、考える姿勢と意欲が大切」と言う。

 AO 入試は、この大学にどうしても入りたいという熱い思いがある人にとっては、嬉しい入試方法だ。大学に行くのなら、好きな大学に行って好きな勉強や研究をしたほうがいい。そのほうがやる気も出るし、考える姿勢も強化できる。結果的に大学生活がエンジョイできるとも言えよう。

 ただ残念なことに、今世間では AO 入試を廃止したほうがいいなどと AO 入試を批判する人もいる。確かにテレビや新聞で、大学の新入生の学力低下が指摘されている。しかし、考える姿勢や意欲は、ペーパーの学力テストだけでは計れない。 AO 入試だからこそ見てもらえるのだと思う。受験者の熱い思いや、意欲も評価してもらえる AO 入試のメリットは、大きいのではないだろうか。

 

AO入試で求める学生像をつくる
2010/07/08               富沢 咲天(14)

 学力テストだけでなく面接や志望理由をふくめ合否を判断する AO 入試が 1990 年に日本に導入され、今では多くの大学の受験生たちにはその制度がかなり知られてきている。だが、受験生以外には、「大学によっていろいろな入試方式があるらしい」という程度の知識しかないのではなかろうか。そこで今回、 AO 入試についてもっと深く知るために、詳しい方たちにインタビューを申し込んだ。 

 まず最初にお話を伺ったのは東北大学の倉元准教授。東北大学の AO 入試は、センター試験や独自の学力テストなどを最初に行い、それを通過した人に面接を行うという。学力試験を行うのは、膨大な受験者の人数を試験で減らして時間と手間を省くためだそうだ。学力試験を行う理由はそれだけでない。学力試験を経た学生は、一般入試で入った学生との学力差があまり出ず、大学が学力の劣る学生の勉強をフォローする必要がない ことだ という。

 このように、東北大学はまず学力があった上でこの大学に入りたいと強く思っている人、さまざまな能力を持っている人を求めている。「AO入試だと簡単に大学に入れるから受けよう、とは決して思ってほしくない」と倉元先生は語った。

 次にお話を伺ったのは阿川尚之慶應義塾 常任 理事(前慶應義塾大学総合政策学 部 部長)。 SFC (湘南藤沢キャンパス) の AO 入試 では 主に 書類審査と面接で合否を判定している。 阿川先生によると、 面接では強い意志、意欲のある人、なにか光るものを持っている人、などを積極的にとっている という 。このように向上心あふれる生徒たちは大学に入ってからも活躍し、周囲の学生たちにも好影響をもたらすそうだ。 阿川先生は「 いろいろな制約もあり、 慶應義塾大学 SFC の AO 入試は世界一だとは思わないが、 熱意のある 良い学生を取っていきたい」と熱く語った。

 倉元先生も阿川先生もともに、 AO 入試は大学にとって良い効果があり、導入してよかったと語る。だが、満足はしていない。課題はたくさんある。

 たとえば、 AO 入試は時間も人手もかかる。一般入試とは別に AO 入試用の独自のテストを作らなければならない。また大勢の受験生たちを面接するため、先生たちは多くの時間を費やさなければならない。大学側にとって、これはとても負担だ。

 面接も十分納得できる時間をとっているとはいえない。短時間の面接で、受験生の素質が本当に全部分かるのか、という疑問も残る。「本当は 20 時間 3 日間 くらい面接したいくらい。でも時間は限られている」と阿川先生は言った。

 倉元先生は「最近の高校では大学に入るため、試験に合格するためだけの勉強しか行っていない傾向がある。本来学校というものはそのようなことを教える場所ではない。大学に入ることだけが人生の目的のようになっているが、それは違う。本当のゴールというものは大学を出てからあるものなのだ」と語る。そして「 AO 入試を理想の入試に近づけたい」という。

 阿川先生のお話で、大学の卒業生に望む「 Decent 」という言葉が印象に残った。人として正しく生きるというような意味だという。勉強ができる、仕事ができる、経済的に豊かになるなどの成功だけではなく、人としてどう生きるべきかは、自分の頭でよく考えなければいけない。

 そもそも AO 入試というものが日本で導入されたのは、時代の流れで社会が求める人材像が変わり、それに対応するためといわれている。以前は 経済的に 安定した 経済の 社会で あったため 、みんなほどほどの同じような能力が求められた。しかし先行きの見えない不安定なこれからの社会では 、 与えられた課題ができるだけでは十分ではなく、「課題を自分で見つける力」、「自分の頭で考え解決する力」が必要だ。どんなに勉強ができても、なにか深刻な問題が起こった時に、問題に対処するために自分の頭で考える力がないと困る。これからの学校 で は単に知識を詰め込むだけでなく、自分で考える力を身に付けなくてはいけないだろう。そのためにも、学生に自分で考える力をつけさせ、行動力や意欲を引き出すのに AO 入試が活用されるべきだと言えよう。

 今回の取材ではたくさんある AO 入試の中で、二つの大学の AO 入試の現状を知ることができた。これらの大学の AO 入試の意義、問題点は他の大学の AO 入試とも共通しているのではないだろうか。

 取材前、「大学は、将来なりたい職業につくために行っておくべきところ」、「 AO 入試は早く合格が出ていいな」くらいにしか思っていなかった自分の甘さを反省した。大学は、学力も必要だが自ら考える力を持つ学生を求めていて、そういう力を持った学生は社会に出ても通用するということがわかったからだ。

 日々なんとなく過ごしている私には、意欲も意志も考える力も全然足りない。今回お伺いした先生方の言葉を心にとめて、もっと自分の頭でとことん考え、弱い意志を鍛えていこうと思う。

 

AO入試は何のためにあるの?
2010/07/08               宮澤 結( 16 )

 みなさんは大学入試の方法のひとつである AO 入試というものを知っているだろうか。

 AO 入試とは、学力試験の結果だけで合否を決めるのではなく志望理由書を書かせ面接を行うことで受験者の能力と個性を評価する、新しい選抜形式である。 1990 年に日本で初めて慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス( SFC )が導入し、その後多くの大学が取り入れるようになった。

 AO 入試には募集人数の総定員に対する割合や募集時期などに関し法的な規制はなく、選抜方法も学校ごとに自由に設定することができる。したがってその大学に合った学生をとることができるのだが、募集時期を早くすることで大学が学生数を確保する青田買いの手段としているという問題も指摘されている。一言で「 AO 入試」といっても、その方法は大学によって様々なのだ。

 今回は AO 入試を行う多くの大学の中で、独自の方法で AO 入試を確立した国立大学法人東北大学の高等教育開発推進センター准教授である倉元直樹先生と、私立慶應義塾大学の阿川尚之慶應義塾常任理事(前慶應義塾大学総合政策学部長)にお話を伺った。

 「東北大学では、『学力重視の AO 入試』を行っている」と倉元先生は言う。東北大学では、面接を行う前に書類の出願とともに学力テストを行ったり、学部によっては一般受験の人とともにセンター試験を受けて、その結果を添えて出願するそうだ。「事前にテストを行うことで沢山の学生を面接する教員の手間を省くことができるし、学力が高いうえに目的意識の高い学生が入ってくるのです」と倉元先生は語った。

 一方、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス( SFC )では、「テストの点だけでなくその人自身を見ること」に重点を置いている。阿川先生は、「本当は3日間ほどかけて受験者を見たいですね」と語る。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス( SFC )が導入した AO 入試で重視していることをたずねると、個人的な意見としたうえで二つ挙げてくれた。

 一つ目は出願書類だ。「高校生のうちに、将来何になりたいか、なぜこの大学に入りたいのかという問いは一度は考えてもいいこと。応募書類を書くことはそのきっかけにもなるし、同時にその大学についても考えるきっかけになる」と言われた。

 二つ目は面接。実際に会うことでその人の知的好奇心や熱意が分かるそうだ。

 お話を伺った2校は国立大学法人と私立大学であるし AO 入試の方法も異なるのだが、共通していたことは AO 入試を行うことによってやる気のある生徒が入ってくることである。 AO 入試は一般入試に先駆けて行われるために、その大学を第一志望とする人たちが受験する。

 阿川先生は言う。「自分の通っている大学が好きだというのはとてもいいこと。 AO 入試で入学してくる学生には大学に対する関心があるから、意欲が高い。また、そのような学生が他の学生のやる気をうながしている」。

 倉元先生は AO 入試の問題点について「最近の AO 入試は受験生の力を底上げするような入試設計がされていない。したがって学生はテクニックばかりを磨いていて、本当の力をつけずに大学入試が最終ゴールになっている。 AO 入試とは何かという考えを、皆で変えていかなくてはならない」と語った。

 東北大学も慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス( SFC )も、 AO 入試で合格して入る学生が一般入試で入る学生を刺激して影響を与えているのは、 AO 入試を実施する目的が明確であるからともいえるだろう。

 「 AO 入試の本来の目的は何なのだろうか」。学力試験だけで合否を決めない選抜形式であるからこそ、多くの大学で導入されるようになった今、大学も受験生もこの問題をもう一度考えるべきなのではないだろうか。

 

AO入試に見る大学の本質
2010/07/08               勝部亜世満(18)

 大学全入時代に 2007 年度より突入したと言われるが、人気大学を巡る受験戦争はいまだに過熱中だ。その中では受験生だけでなく、各大学も自大学のカラーやアドミッション・ポリシー(求められる学生像)に見合った学生を確保するための制度改革に乗り出すなど奮闘している。

 その 1 つに「 AO 入試」がある。アメリカの大学における入試専門部署を模したアドミッション・オフィスを設置し、従来の筆記による学力試験だけでは判断できない能力を持つ受験生を、書類・面接等によって選抜するものだ。知識のみに偏らない「大学入試の多様化」を目指したものだが、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス (SFC) による 1990 年度導入を皮切りに、全国各地の国公立・私立大学で定着しつつある。

 今回、こうした入試制度改革によって大学の何が変化したのかを 知るために、 SFC と、国立大学法人の東北大学の担当教員に話を伺った。

 まず、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス (SFC) の AO 入試は出願方式により異なる部分もあるが、それまでの主だった活動実績、高校 3 年間における評定平均などといった書類審査によって一次選抜を行い、それをパスした受験生に対して面接が課され、最終合格者を決定する。

 「本当は 3 日間かけてじっくり面接を行いたい」という前 SFC 総合政策学部長・慶應義塾常任理事の阿川尚之先生は、「本当は能力のある受験生を一次選抜で不合格にさせてしまうことが絶対ないとは言えない」と AO 入試の限界点を指摘する。他方で、「たった数十分の面接で受験生の全てを知ることはできないが、話し方や目を見ると相手の正直さや知的興味、熱意がこちらに伝わる」とも言う。

 阿川先生によると、実際に AO 入試で入学した学生たちの意欲は極めて強く、オリジナルな計画を実現するなどの行動力で、一般入試によって入学した学生にも多大な刺激を与えているという。しかもこの学生たちの SFC に対する愛着は凄まじく、彼らの意欲が大学全体の活性化に直接貢献しているため、 SFC における AO 入試の導入は結果的に成功を収めているのである。

 次に、東北大学の AO 入試であるが、これは後期日程( 2 月下旬実施の国公立大学前期日程終了後、 3 月中旬ごろ前期日程合格者以外から選抜する方式)廃止に伴いその定員を新たにシフトしたものだという。研究者の養成を目的に、どうしても東北大学で研究に取り組みたいという意志の強い受験生を対象にしており、大学入試センター試験、独自の学力検査、評定平均と面接などによる入試で、一般入試に先立って行われる。一定の学力基準に基づいて第一次選抜を行うことにより志願者を絞ることで、大学側のコスト負担を軽減していることも特徴だ。 2000 年度より 2 学部で導入されたが、現在では全学部に AO 入試枠が存在する。

 大学自身が東北地方を代表する立場であるために、夏のオープンキャンパスには東北 6 県を中心に多くの受験生が集まり、東北大学の研究に直に触れて「試食」することができる。また大学側からも東北地方の各高校に教官を派遣し、東北大学の研究活動等を広報していくことで高校との緊密な関係を築き、その高大連携の橋渡しとして AO 入試を位置づけている。

 東北大学高等教育開発推進センターの倉元直樹准教授によると、この AO 入試によって入学した学生の成績は概ね一般枠の学生より高い水準で、学問に対する意欲も高いという。特に工学部においては“先取り学習”として数学・物理学の演習講座を設置しており、一般科目に先立ち単位を修得する学生が大半となる。また AO 入試で不合格となっても一般入試で合格した学生は毎年 100 人以上にのぼり、彼らの受験生活で培われた粘り強さも、その後の研究に生きてくると考えられている。こうして東北大学における AO 入試は、 SFC とはまた異なった形で成功を収めている。

 この 2 大学のように、 AO 入試を大学の活性化に活用している大学が存在する一方、 AO 入試を学生の早期囲い込み、いわゆる「青田買い」に利用して問題化している大学もある。「青田買い」で批判されているのは、経営資金確保のために入学者を一定数確保することが最優先されてしまうことだ。それにより受験期の試行錯誤を経験しない学生が入学し、大学全体の学力低下を進めてしまう。大学は、そうした学生の底上げへ労力を費やすことになり、大学本来の使命を果たすことから更に遠ざかっていくことになる。

 これに関して倉元先生は、「 AO 入試は SFC が素晴らしい才能を発掘するために導入した画期的な制度であったが、多くの大学が専門組織を整えずに追随したことによって、本来の目的とは異なる方向に進んでしまった」と残念がる。

 「大学とは、自分の頭で考える力をつけ、新しい問題に対処する力をつける場所」と阿川先生は述べていたが、そういった本質的な意味での「学問」に取り組もうとする姿勢をもった学生と教授が集まってこそ、大学の意味があるのではないだろうか。

 AO 入試は今や「多様化」というスローガンのもと、大学ごとに独り歩きしてしまい、ひとくくりに成否を論じることは不可能に近い。ただ AO 入試の導入によって過熱した受験戦争をある程度冷却できていることは確かである。そして、「大学入試がゴールではない」ことを示そうとする AO 入試に関して考えることは、大学を目指すことに対する本質的な意味について考えることに直結していると言えるだろう。

 

 

 

▲ 慶應義塾常任理事の阿川尚之先生

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▲ 阿川尚之先生に取材するCE記者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▲ 東北大学の倉元准教授に取材

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▲倉元准教授に取材するCE記者